ヘルペスは、唇や性器、体の皮膚など、様々な場所に症状が現れますが、その中でも特に緊急性が高く、迅速な対応が求められるのが「目の周り」にできた場合です。まぶたや額、鼻の頭などに、ヘルペス特有のピリピリとした痛みを伴う水ぶくれができた時は、ためらわずに「眼科」を受診してください。なぜなら、目の周りの皮膚症状は、角膜(黒目)や結膜(白目)といった眼球そのものにウイルスが感染する「角膜ヘルペス」を引き起こす危険性があるからです。角膜ヘルペスは、目の痛みや充血、視力低下、まぶしさを感じるといった症状を伴います。もし治療が遅れたり、不適切な治療が行われたりすると、角膜に強い炎症や潰瘍が生じ、濁りが残ってしまうことがあります。この角膜の混濁は、視力に恒久的な障害を残す原因となり、最悪の場合、失明に至る可能性さえある、非常に危険な病気なのです。特に、帯状疱疹が顔面、特に額から鼻にかけての三叉神経第一枝領域に発症した場合は、高い確率で眼合併症を引き起こすことが知られています。鼻の先に発疹が出たら、それは目の病変のサイン(ハッチンソン徴候)とも言われ、眼科的な診察が必須となります。眼科では、細隙灯顕微鏡という特殊な顕微鏡を使って、角膜の表面を詳細に観察し、ヘルペスウイルスによる特徴的な病変がないかを診断します。そして、感染が確認された場合は、抗ウイルス薬の眼軟膏や点眼薬を用いて、眼球内でのウイルスの増殖を直接抑える治療を行います。同時に、皮膚科とも連携し、抗ウイルス薬の内服治療も並行して進められることが一般的です。目の周りにできた水ぶくれを、「ただの皮膚のヘルペスだろう」と自己判断し、皮膚科だけを受診して安心してしまうのは大変危険です。皮膚の症状に気づいた時点で、たとえ目の症状がまだ出ていなくても、予防的な意味合いも含めて、必ず眼科専門医の診察を受けるようにしてください。早期発見・早期治療が、あなたの視力を守るための最も重要な鍵となります。