あれは忘れもしない、秋が深まってきた頃のことでした。最初は、喉が少しイガイガする程度の、ほんの軽い風邪のような症状でした。熱も出なかったので、特に気にすることなく、普段通りの生活を送っていました。しかし、数日経っても、咳だけが抜けずに残ってしまったのです。それも、ただの咳ではありませんでした。日中はそれほどでもないのですが、夜、布団に入って体が温まると、まるでスイッチが入ったかのように、コンコン、コンコンと乾いた咳が止まらなくなるのです。一度咳き込むと、息が苦しくなるほどで、眠りにつくことができませんでした。市販の咳止めシロップを飲んでみましたが、気休めにしかならず、寝不足の日々が続きました。不思議なことに、熱は全くなく、食欲も普通にありました。そのため、「体は元気なのに、咳だけがしつこいなんて、変だな」と感じていました。2週間が過ぎても咳は治まる気配がなく、それどころか、会社の会議中や電車の中といった静かな場所で、急に激しく咳き込んでしまい、周りの視線が痛いと感じるようになりました。さすがにこれはおかしいと思い、私は近所の内科クリニックを受診しました。胸の音を聞いてもらい、レントゲンも撮りましたが、医師からは「レントゲンは綺麗ですね。気管支炎が長引いているのでしょう」と言われ、気管支拡張薬と咳止めを処方されました。しかし、その薬を飲んでも、症状はほとんど変わりませんでした。途方に暮れていた時、職場の同僚が「うちの子も同じような咳が続いて、小児科でマイコプラズマ肺炎だって言われたよ」と教えてくれました。「熱がなくてもなるらしいよ」という一言に、私はハッとしました。すぐに、呼吸器内科を標榜している別の病院へ行ってみることにしました。そこでの血液検査の結果、私の長引く咳の原因が、やはりマイコプラズマ肺炎であることが判明したのです。マクロライド系の抗生物質を処方され、それを飲み始めると、あれだけ頑固だった咳が、数日で明らかに軽くなっていきました。この経験を通じて、熱がないからといって、決して油断してはいけないということを痛感しました。