大人のヘルパンギーナと診断された時、多くの人が期待するのが「これを飲めばすぐに治る」という特効薬の存在です。しかし、残念ながら、ヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルスに直接作用する抗ウイルス薬は、現在のところ存在しません。インフルエンザのように、ウイルスの増殖を抑える薬はないのです。つまり、ヘルパンギーナの治療は、ウイルスに対する抵抗力を高め、自身の免疫力でウイルスを体から追い出すまでの間、つらい症状を和らげる「対症療法」が中心となります。この事実をまず受け入れ、初期段階でいかに苦痛をコントロールし、体力の消耗を防ぐかが、回復への鍵を握ります。まず、高熱と全身の痛みに対しては、「解熱鎮痛剤」が処方されます。アセトアミノフェンやロキソプロフェン、イブプロフェンなどが一般的で、これらを服用することで、体温を下げ、関節痛や頭痛を和らげることができます。ただし、薬の効果が切れると再び症状がぶり返すため、医師の指示に従い、適切な間隔を空けて服用することが重要です。次に、地獄のような喉の痛みに対しては、炎症を抑える「消炎鎮痛薬」や、粘膜の腫れを引かせる「トラネキサム酸」などが処方されます。また、痛みが特に強い場合には、局所麻酔成分が含まれたトローチやスプレーが処方されることもあります。これらは食事の前に使用すると、一時的に痛みが麻痺し、水分や栄養の補給がしやすくなります。そして、何よりも重要なのが「水分補給」です。強烈な咽頭痛のため、水分摂取を怠りがちですが、高熱で大量の汗をかくため、脱水症状に陥るリスクが非常に高くなります。水やお茶だけでなく、失われた電解質も補給できる経口補水液やスポーツドリンクを、少量ずつ、こまめに摂取することを強く意識してください。ストローを使うと、喉の痛む部分を避けて飲み込みやすくなる場合があります。食事は無理に摂る必要はありませんが、もし可能であれば、プリンやゼリー、アイスクリーム、冷製スープなど、喉越しが良く、栄養価のあるものを選びましょう。特効薬がないからこそ、安静、水分補給、そして対症療法という基本を徹底することが、この厳しい病気を乗り切るための唯一にして最善の道なのです。
特効薬はない!ヘルパンギーナの初期対処法