30代半ばの私は、デスクワーク中心の生活と長年の便秘に悩まされていました。排便時に強くいきむことは日常茶飯事で、時々トイレットペーパーに鮮血が付着することもありましたが、「きっと切れ痔だろう」と軽く考え、市販の軟膏でごまかす日々を送っていました。女性であるという羞恥心も手伝って、専門の病院に行くという選択肢は、私の頭の中には全くありませんでした。しかし、その日は違いました。いつもより多めに便器の中に血が広がり、まるで生理が始まったかのような鮮やかな赤色が、私の心に警鐘を鳴らしたのです。血の量もさることながら、排便後も続く鈍い肛門の痛みと、何か異物が挟まっているかのような残便感が、これまでの「ただの切れ痔」とは明らかに違うと感じさせました。インターネットで「血便、女性、何科」と震える手で検索すると、消化器内科や肛門科という言葉と共に、大腸がんという最悪のシナリオが目に飛び込んできました。私の不安は一気に頂点に達しました。このまま放置して、もし手遅れになったらどうしよう。家族の顔が次々と浮かび、私はようやく重い腰を上げる決意を固めました。問題は、どの病院へ行くかです。消化器内科でいきなり大腸カメラを受ける勇気はなく、まずは出血源として最も可能性の高い肛門の専門家に診てもらおうと、女性医師が在籍する肛門科クリニックを探し当てました。予約の電話をする手は震え、声も上ずっていたと思います。診察当日、待合室では心臓が口から飛び出しそうなくらい緊張していました。しかし、診察室に入ると、女性の医師は私の話を優しく、そして丁寧に聞いてくれました。診察は、横向きに寝て膝を抱える体勢で行われ、羞恥心に配慮してタオルをかけてくれるなど、細やかな気配りが感じられました。診断の結果は、やはり痔。ただし、切れ痔(裂肛)だけでなく、内側に大きないぼ痔(内痔核)もできており、そこから出血しているとのことでした。幸い、がんを疑う所見はなく、まずは軟膏と内服薬で治療を始めることになりました。あの時、勇気を出して一歩を踏み出した自分を、今では心から褒めてあげたいと思います。羞恥心よりも、自分の体を大切にする気持ちが、私を救ってくれたのです。
私が血便で肛門科の受診を決意した日