以前は何でもなかった坂道や階段を上るだけで、息が切れて苦しくなる。夕方になると足がパンパンにむくんで、靴下の跡がくっきりと残る。このような症状は、単なる年齢のせいや運動不足と片付けてしまいがちですが、実は心臓の機能が低下している「心不全」の初期症状である可能性があります。心不全とは、特定の病名ではなく、心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなった結果、様々な症状が現れる状態の総称です。この心不全のサインに気づいた時に相談すべき診療科は、「循環器内科」です。では、なぜ心不全になると、息切れやむくみが起こるのでしょうか。心臓のポンプ機能が低下すると、全身に送り出す血液の量が減る一方で、心臓に戻ってくる血液がスムーズに処理できなくなり、血液の渋滞(うっ血)が起こります。このうっ血が肺で起こると、肺に水が溜まり、ガス交換がうまくできなくなって、息切れや呼吸困難が生じます。特に、横になると息苦しさが増し、体を起こすと少し楽になる(起座呼吸)のは、心不全に特徴的な症状です。一方、うっ血が全身の血管で起こると、血管から水分が漏れ出し、体の低い部分、特に足のすねや甲に溜まって「むくみ(浮腫)」となります。指でむくんだ部分を押すと、跡がしばらく残るのが特徴です。また、食欲不振や、急激な体重増加(体に水分が溜まるため)も、心不全のサインとして現れることがあります。心不全の原因は様々で、心筋梗塞や心臓弁膜症、高血圧、不整脈など、あらゆる心臓病が最終的に心不全へと至る可能性があります。循環器内科では、心エコー検査などで心臓のポンプ機能を評価し、心不全の原因となっている病気を特定します。そして、利尿薬で体に溜まった余分な水分を排泄させたり、心臓の負担を軽くする薬を使ったりしながら、症状をコントロールし、病気の進行を抑える治療を行います。息切れやむくみは、心臓が発しているSOSサインです。「年のせい」と自己判断せず、一度、循環器内科で心臓の状態をチェックしてもらうことが、早期発見・早期治療に繋がり、健やかな生活を長く続けるための鍵となります。