「子どもの夏風邪」と軽んじられがちなヘルパンギーナですが、なぜ大人が感染すると、子どもとは比較にならないほど重く、激烈な症状に見舞われるのでしょうか。その背景には、子どもの頃に様々なウイルスに暴露されてきた経験の有無と、大人ならではの免疫反応の強さが複雑に関係しています。ヘルパンギーナの原因となるのは、主にコクサッキーウイルスA群を代表とするエンテロウイルス属のウイルスです。このエンテロウイルスには非常に多くの血清型(ウイルスのタイプ)が存在します。子どもは、保育園や幼稚園といった集団生活の中で、様々なタイプのエンテロウイルスに次々と感染し、その都度、そのタイプに対する免疫を獲得していきます。そのため、一度ヘルパンギーナにかかっても、次に別のタイプのウイルスに感染した際には、ある程度の交差免疫が働いたり、免疫反応がマイルドになったりして、比較的軽い症状で済むことが多いのです。一方、大人の場合、子どもの頃にヘルパンギーナの原因となる全てのウイルスタイプに感染しているわけではありません。特に、自分が過去に感染したことのないタイプのウイルスに初めて感染した場合、体はそれを完全に未知の侵入者とみなし、全力で排除しようとします。この時、大人の成熟した強力な免疫システムが、サイトカインなどの炎症性物質を過剰に産生し、それが結果として40度近い高熱や、全身の強い炎症反応、そして耐え難いほどの激しい喉の痛みといった、いわゆる「サイトカインストーム」に近い状態を引き起こしてしまうのです。つまり、大人のヘルパンギーナが重症化しやすいのは、免疫力が弱いからではなく、むしろ「強力すぎる免疫反応」が自らの体を攻撃してしまう、という皮肉なメカニズムによるものなのです。また、社会人としてのストレスや疲労、睡眠不足などが免疫バランスを崩し、ウイルスとの戦いをより困難にしている側面も否定できません。子どもの頃に得たはずの免疫も、全てのウイルスタイプを網羅しているわけではないという事実を理解しておく必要があります。
なぜ大人のヘルパンギーナは重症化しやすいのか