口を開け閉めするたびに顎がカクカク鳴る、食事中に顎に鋭い痛みが走る、あるいは朝起きると顎がだるくて口が開けにくい。こうした「顎が痛い」という症状は、多くの人が一度は経験する身近な不調ですが、その原因は一つではありません。そして、原因によって訪れるべき診療科も異なるため、最初の選択を間違えると、適切な治療にたどり着くまでに時間がかかってしまう可能性があります。顎の痛みの原因として最も頻度が高いのが、「顎関節症(がくかんせつしょう)」です。これは、顎の関節やその周りの筋肉(咀嚼筋)に問題が生じる病気の総称で、顎の痛み、口が開きにくい(開口障害)、顎を動かすと音が鳴る(関節雑音)というのが三大症状です。この顎関節症を専門的に診てくれるのが、「歯科」や「口腔外科」です。特に口腔外科は、口周りの外科的な疾患を扱う専門家であり、顎関節症の診断と治療における中心的な役割を担っています。次に、耳のすぐ前にある顎の関節の痛みから、「耳鼻咽喉科」を受診する人も少なくありません。実際に、中耳炎や外耳炎、耳下腺炎(おたふくかぜなど)といった耳やその周辺の病気が、顎の痛みとして感じられることもあります。耳の詰まりや聞こえにくさ、耳だれといった症状を伴う場合は、まず耳鼻咽喉科で耳の病気がないかを確認することが重要です。また、転倒などで顎を強くぶつけた後に痛みが生じた場合は、「整形外科」や「形成外科」が選択肢となります。骨折や脱臼の有無をレントゲンやCTで確認し、適切な処置を受ける必要があります。さらに、稀ではありますが、心臓の病気である狭心症や心筋梗塞の痛みが、顎に「放散痛」として現れることもあります。胸の圧迫感や息苦しさを伴う場合は、迷わず循環器内科や救急外来を受診しなければなりません。このように、顎の痛み一つとっても、その背景は多岐にわたります。まずは自分の症状をよく観察し、顎の動きそのものに問題があると感じるなら歯科・口腔外科へ、耳の症状を伴うなら耳鼻咽喉科へ、というように、最も関連が深いと思われる診療科を選ぶことが、解決への第一歩となるのです。
顎が痛い時に考えられる主な原因と診療科