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大人の熱なしマイコプラズマ肺炎、その治療法は?
熱が出ないタイプのマイコプラズマ肺炎は、診断が遅れがちですが、一度診断が確定すれば、適切な治療によって症状を改善させることが可能です。その治療の基本となるのが、「抗菌薬(抗生物質)」の投与です。ただし、ここで非常に重要なのは、「どの種類の抗菌薬を選ぶか」という点です。マイコプラズマは、細菌でありながら「細胞壁」という構造を持たない、非常に特殊な性質を持っています。一般的な細菌性肺炎の治療によく用いられるペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬は、この細胞壁を破壊することで効果を発揮するため、細胞壁のないマイコプラズマには全く効きません。そのため、マイコプラズマ肺炎の治療には、細菌の内部に入り込み、タンパク質の合成を阻害することで増殖を抑えるタイプの抗菌薬が使われます。具体的には、「マクロライド系」(クラリスロマイシン、アジスロマイシンなど)、「テトラサイクリン系」(ミノサイクリン、ドキシサイクリンなど)、そして「ニューキノロン系」(レボフロキサシン、モキシフロキサシンなど)の三系統が有効です。第一選択薬として、まずマクロライド系の抗菌薬が処方されることが一般的です。しかし近年、このマクロライド系の薬が効かない「耐性菌」の割合が増加していることが問題となっています。特に小児では耐性菌の比率が高いとされています。マクロライド系の薬を数日間服用しても、咳などの症状が全く改善しない場合は、耐性菌の可能性を考え、テトラサイクリン系やニューキノロン系の抗菌薬への変更が検討されます。ただし、テトラサイクリン系の薬は、8歳未満の小児では歯が黄色く着色する副作用の可能性があるため、原則として使用されません。ニューキノロン系の薬も、関節への影響が懸念されるため、小児への使用は慎重に行われます。抗菌薬による治療と並行して、つらい咳の症状を和らげるための対症療法も行われます。咳を鎮める「鎮咳薬」や、気管支を広げて呼吸を楽にする「気管支拡張薬」などが処方されることもあります。熱がない場合でも、体は病原体と戦って消耗しています。十分な休息と、適切な水分補給を心がけることも、スムーズな回復のためには不可欠です。