ほとんどの胃痛は、緊急を要するものではありませんが、中には一刻も早く医療機関を受診しなければならない、命に関わる危険な病気のサインである場合があります。いつもの胃痛とは違う、以下のような特徴を持つ胃痛が現れた場合は、自己判断で様子を見たり、市販薬でごまかしたりせず、直ちに救急外来を受診するか、救急車を呼ぶことをためらわないでください。まず、最も注意すべきなのが「痛みの強さと性質」です。これまでに経験したことのないような、立っていられない、脂汗が出るほどの激しい腹痛が突然始まった場合は、非常に危険なサインです。特に、胃や十二指腸に穴が開いてしまう「消化管穿孔(せんこう)」の可能性があります。胃潰瘍などが進行して、胃壁に穴が開くと、胃の内容物や胃酸が腹腔内に漏れ出し、激しい腹痛と共に「腹膜炎」を引き起こします。この場合、お腹全体が板のように硬くなる(筋性防御)のが特徴で、緊急手術が必要な状態です。次に、「吐血」や「下血」を伴う場合です。コーヒーのカスのような黒っぽいものを吐いたり(吐血)、コールタールのような真っ黒でドロドロした便(タール便)が出たりした場合は、胃や十二指腸からの大量出血が疑われます。これは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、あるいは胃がんからの出血の可能性があり、貧血が急速に進行してショック状態に陥る危険性があります。めまいや立ちくらみ、冷や汗、意識が遠のく感じなどを伴う場合は、特に緊急性が高いです。また、胃痛だけでなく、「高熱」や「激しい嘔吐」、「意識が朦朧とする」といった全身の症状を伴う場合も、重篤な状態である可能性があります。例えば、急性膵炎では、みぞおちから背中にかけての激しい痛みに加え、発熱や嘔吐が見られます。さらに、忘れてはならないのが「心筋梗塞」の可能性です。心筋梗塞の痛みは、胸の痛みとして現れることが多いですが、時にみぞおちの痛みとして感じられることがあります。胸の圧迫感や締め付けられる感じ、左肩や顎への放散痛を伴う場合は、心臓の病気も疑う必要があります。これらの危険なサインは、体が発している最大の警告です。自己判断は絶対にせず、迅速な行動をとることが、命を救うことに繋がります。