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胸の痛みや動悸、心臓の悩みは何科へ?
胸が締め付けられるように痛い、突然ドキドキと動悸がする、階段を上ると息が切れる。このような心臓に関連すると思われる症状が現れた時、多くの人が不安を感じると同時に、「一体、何科を受診すれば良いのだろう」という疑問に直面します。心臓の病気を専門的に診療する中心的な科は、「循環器内科」です。循環器とは、心臓から送り出された血液が、血管を通って全身を巡り、再び心臓へ戻ってくる一連のシステムのことを指します。循環器内科は、この心臓と血管の病気を専門とする内科の一分野であり、心臓のトラブルにおける最初の相談窓口として最もふさわしい診療科です。循環器内科では、まず丁寧な問診と診察を行い、症状の詳しい内容や、いつから、どのような時に起こるのかを聞き取ります。そして、心電図検査や胸部X線(レントゲン)検査、心エコー(超音波)検査といった、心臓の状態を調べるための基本的な検査を駆使して、症状の原因を探ります。高血圧や脂質異常症(高コレステロール血症)、糖尿病といった、心臓病の大きなリスクとなる生活習慣病の管理も、循環器内科の重要な役割の一つです。狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、心不全、不整脈など、多くの心臓病は、この循環器内科で診断から薬物治療、そして長期的な管理まで行われます。一方で、心臓の病気の中には、手術が必要となるものもあります。例えば、心臓の弁の機能が悪くなる心臓弁膜症や、狭心症や心筋梗塞で血管が完全に詰まってしまい、薬物治療だけでは不十分な場合などです。このような外科的な治療を専門とするのが「心臓血管外科」です。循環器内科で精密検査を行った結果、手術が必要と判断された場合に、心臓血管外科へと紹介されるのが一般的な流れとなります。まずは、心臓の症状に気づいたら、内科的なアプローチで診断と治療を行う「循環器内科」を受診する。これが、心臓の病気と向き合うための最も確実で安心な第一歩と言えるでしょう。
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家族や同僚にうつさないために知っておくべきこと
大人がヘルパンギーナに感染した場合、その苦しみは計り知れません。そして、その苦しみを大切な家族や職場の同僚にまで広げてしまわないように、徹底した感染対策を講じることは、患者としての重要な責務です。ヘルパンギーナは、インフルエンザなどと同様に非常に感染力が強い疾患であり、その感染経路を正しく理解することが対策の第一歩となります。主な感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」です。飛沫感染は、患者の咳やくしゃみ、会話などで飛び散ったウイルスを含む飛沫を、周囲の人が吸い込むことで感染します。接触感染は、ウイルスが付着した手でドアノブや手すりなどを触り、その場所に触れた別の人が、さらに自分の口や鼻、目に触れることで感染する経路です。さらに、ヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルスは、症状が治まった後も、長期間にわたって便の中から排泄され続けるという厄介な特徴があります。これを「糞口感染」と呼び、特にトイレ後の手洗いが不十分だと、感染を広げる原因となります。これらの感染経路を踏まえ、家庭内や職場で実践すべき具体的な対策は以下の通りです。まず、最も基本かつ重要なのが「手洗い」の徹底です。石鹸と流水で、指の間や手首まで30秒以上かけて丁寧に洗いましょう。特に、トイレの後、食事の前、鼻をかんだ後などは必須です。タオルは家族と共有せず、ペーパータオルを使用するのが理想的です。次に、患者は必ず「マスクを着用」し、咳やくしゃみをする際は、ティッシュや肘の内側で口と鼻を覆う「咳エチケット」を遵守します。食器やコップの共用も避けるべきです。また、ウイルスが付着しやすいドアノブ、リモコン、スイッチ、スマートフォンの画面などは、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒液でこまめに拭き掃除を行いましょう。そして、症状がある間は、言うまでもなく、出勤や登校は控え、自宅で安静に過ごすことが大原則です。熱が下がり、喉の痛みが和らいでも、ウイルスは便中に2~4週間にわたって排泄される可能性があることを念頭に置き、症状回復後もしばらくは、特にトイレ後の手洗いを厳重に行う必要があります。自分自身の療養に専念すると同時に、周囲への感染拡大を防ぐ意識を持つことが、社会の一員としての責任です。
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熱なしのマイコプラズマ肺炎、見逃されるリスク
マイコプラズマ肺炎の大きな特徴の一つは、高熱を伴わないケースがあることです。この「熱なし」という点が、実は診断を遅らせ、適切な治療の開始を妨げる大きなリスクとなり得ます。なぜなら、患者さん自身も、そして時には医療者側でさえも、肺炎という重い病気である可能性を見過ごしやすくなってしまうからです。例えば、子供が熱もなく、比較的元気に遊んでいるけれど、コンコンと咳をしている。親としては「風邪気味かな」と考え、しばらく様子を見てしまうかもしれません。学校も休ませるほどの症状ではないため、そのまま登校させ、結果的に集団生活の中で感染を広げてしまう一因となることもあります。大人でも同様です。熱がないため仕事も休まず、日常生活を送れてしまう。しかし、その裏では、気道でマイコプラズマが増殖し、炎症がじわじわと広がっているのです。マイコプラズマ肺炎の診断が遅れると、いくつかの問題が生じます。第一に、咳の症状が長引き、体力の消耗や睡眠不足につながり、生活の質が著しく低下します。激しい咳き込みは、胸や腹筋の筋肉痛を引き起こし、夜も眠れないほどの苦痛を伴うことがあります。第二に、不適切な抗菌薬(抗生物質)が処方されてしまうリスクです。一般的な細菌性肺炎によく使われるペニシリン系やセフェム系といった抗菌薬は、細菌の細胞壁を壊すことで効果を発揮します。しかし、マイコプラズマは細胞壁を持たない特殊な細菌であるため、これらの薬は全く効果がありません。マイコプラズマ肺炎には、マクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系といった、細菌の蛋白合成を阻害するタイプの抗菌薬が必要です。熱がないからと風邪と判断され、効果のない薬を飲み続けることで、治癒が遅れ、症状が重症化してしまう可能性もあるのです。さらに、稀ではありますが、中耳炎や無菌性髄膜炎、心筋炎、肝炎、ギラン・バレー症候群といった、肺以外の合併症を引き起こすことも報告されています。これらのリスクを避けるためにも、熱がないというだけで安心せず、しつこい咳が続く場合には、マイコプラズマ肺炎の可能性を念頭に置いた、専門的な診断を受けることが何よりも大切です。
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顎が痛い時に考えられる主な原因と診療科
口を開け閉めするたびに顎がカクカク鳴る、食事中に顎に鋭い痛みが走る、あるいは朝起きると顎がだるくて口が開けにくい。こうした「顎が痛い」という症状は、多くの人が一度は経験する身近な不調ですが、その原因は一つではありません。そして、原因によって訪れるべき診療科も異なるため、最初の選択を間違えると、適切な治療にたどり着くまでに時間がかかってしまう可能性があります。顎の痛みの原因として最も頻度が高いのが、「顎関節症(がくかんせつしょう)」です。これは、顎の関節やその周りの筋肉(咀嚼筋)に問題が生じる病気の総称で、顎の痛み、口が開きにくい(開口障害)、顎を動かすと音が鳴る(関節雑音)というのが三大症状です。この顎関節症を専門的に診てくれるのが、「歯科」や「口腔外科」です。特に口腔外科は、口周りの外科的な疾患を扱う専門家であり、顎関節症の診断と治療における中心的な役割を担っています。次に、耳のすぐ前にある顎の関節の痛みから、「耳鼻咽喉科」を受診する人も少なくありません。実際に、中耳炎や外耳炎、耳下腺炎(おたふくかぜなど)といった耳やその周辺の病気が、顎の痛みとして感じられることもあります。耳の詰まりや聞こえにくさ、耳だれといった症状を伴う場合は、まず耳鼻咽喉科で耳の病気がないかを確認することが重要です。また、転倒などで顎を強くぶつけた後に痛みが生じた場合は、「整形外科」や「形成外科」が選択肢となります。骨折や脱臼の有無をレントゲンやCTで確認し、適切な処置を受ける必要があります。さらに、稀ではありますが、心臓の病気である狭心症や心筋梗塞の痛みが、顎に「放散痛」として現れることもあります。胸の圧迫感や息苦しさを伴う場合は、迷わず循環器内科や救急外来を受診しなければなりません。このように、顎の痛み一つとっても、その背景は多岐にわたります。まずは自分の症状をよく観察し、顎の動きそのものに問題があると感じるなら歯科・口腔外科へ、耳の症状を伴うなら耳鼻咽喉科へ、というように、最も関連が深いと思われる診療科を選ぶことが、解決への第一歩となるのです。
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初期症状を感じたら何科を受診すべきか
突然の40度近い高熱と、唾も飲み込めないほどの激しい喉の痛み。大人のヘルパンギーナを疑わせる激烈な初期症状が現れた時、多くの人がまず悩むのが「一体、どの病院の何科に行けば良いのか」という問題でしょう。症状が内科的なものと耳鼻咽喉科的なものが混在しているため、迷うのも無理はありません。結論から言えば、最も適切な診療科は「耳鼻咽喉科」です。その最大の理由は、ヘルパンギーナの診断を確定づける上で最も重要な所見が、喉の奥の状態にあるからです。耳鼻咽喉科医は、ヘッドライトや内視鏡(ファイバースコープ)といった専門的な器具を用いて、喉の奥、特に肉眼では見えにくい軟口蓋や咽頭後壁の状態を詳細に観察することができます。ヘルパンギーナに特徴的な、赤い縁取りを持つ小水疱やアフタ性潰瘍の存在を直接確認することで、症状が酷似する他の疾患、例えば急性扁桃炎や伝染性単核球症などとの正確な鑑別診断が可能になります。内科でももちろん診察は可能ですが、喉の奥を詳細に観察する器具が揃っていない場合も多く、「急性咽頭炎」という大まかな診断に留まることもあります。また、耳鼻咽喉科では、痛みを和らげるための処置も専門的に行えます。例えば、強烈な咽頭痛に対して、局所麻酔薬や消炎剤を直接喉に噴霧・塗布する処置を行ってくれる場合があります。これにより、一時的に痛みが劇的に和らぎ、水分や食事の摂取が可能になることも少なくありません。これは、内科ではなかなか受けられない専門的な処置です。もちろん、近所に耳鼻咽喉科がない場合や、かかりつけの内科医がいる場合は、まずは内科を受診するのでも問題ありません。そこでヘルパンギーナが強く疑われれば、専門である耳鼻咽喉科を紹介される流れになるでしょう。しかし、選択が可能なのであれば、最初から喉の専門家である耳鼻咽喉科の扉を叩くことが、正確な診断と苦痛の軽減への最も効率的なルートであると言えます。
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妊娠中の膀胱炎、何科に相談すれば安心?
妊娠中は、女性の体が大きく変化する特別な時期です。嬉しい変化と共に、これまで経験したことのないような様々なマイナートラブルに見舞われることも少なくありません。その中でも、特に注意が必要なのが「膀胱炎」です。実は、妊婦さんは、妊娠していない時と比べて膀胱炎になりやすい状態にあります。その理由はいくつかあります。まず、妊娠すると、大きくなった子宮がすぐ後ろにある膀胱を圧迫します。これにより、膀胱に溜められる尿の量が減ってトイレが近くなる(頻尿)一方で、完全に尿を出し切れずに膀胱内に尿が残りやすくなります(残尿)。この残った尿が、細菌の温床となってしまうのです。また、妊娠中に分泌が増える黄体ホルモン(プロゲステロン)には、膀胱や尿管の筋肉を緩める作用があり、尿の流れが滞りやすくなることも、細菌が繁殖しやすい環境を作り出します。もし、妊娠中に膀胱炎の症状(排尿時痛、頻尿、残尿感など)に気づいた場合、相談すべき診療科は、迷わず「かかりつけの産婦人科」です。自己判断で様子を見たり、妊娠前に処方された薬を飲んだりすることは絶対にやめてください。産婦人科医は、妊娠中の母体と胎児の状態を最もよく理解している専門家です。妊娠中に膀胱炎を放置することの最大のリスクは、膀胱の細菌が腎臓にまで達して「腎盂腎炎」を引き起こすことです。妊娠中の腎盂腎炎は、高熱や強い腰痛を伴い、重症化すると早産や低出生体重児の原因となる危険性があります。そのため、早期発見・早期治療が何よりも重要になります。産婦人科では、妊婦健診の際に必ず尿検査を行い、尿中の細菌や白血球の有無をチェックしていますが、症状を自覚した場合は、次の健診を待たずに、すぐに連絡して指示を仰ぎましょう。治療には、抗菌薬が用いられますが、産婦人科医は、胎児への影響が少なく、妊娠中でも安全に使用できる薬を慎重に選択して処方してくれます。妊娠というデリケートな時期だからこそ、尿のトラブルは軽視せず、常に母子の健康を見守ってくれている、かかりつけの産婦人科医に相談することが、最も安全で安心な選択なのです。
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これは危険!緊急で受診すべき胸の痛み
胸の痛みは、様々な原因で起こりますが、中には一刻を争う、命に関わる危険な病気のサインである場合があります。特に、心臓の病気による痛みは、迅速な対応が生死を分けることも少なくありません。いつもの痛みとは違う、以下のような特徴を持つ胸の痛みが現れた場合は、ためらわずに救急車を呼ぶか、救急外来を受診してください。まず、最も危険なのが「急性心筋梗塞」や「不安定狭心症」による痛みです。その特徴は、「突然、胸の中央部あたりが締め付けられる、あるいは圧迫されるような激しい痛み」です。この痛みは、しばしば左肩や腕、顎、背中などに広がること(放散痛)があります。冷や汗や吐き気、呼吸困難を伴うことも多く、安静にしていても痛みが20分以上続く場合は、心筋梗塞の可能性が非常に高いと考えられます。心筋梗塞は、心臓の筋肉に血液を送る冠動脈が完全に詰まり、心筋が壊死してしまう病気です。一刻も早く詰まった血管を再開通させる治療が必要となります。次に危険なのが、「急性大動脈解離」です。これは、心臓から全身へ血液を送る最も太い血管である大動脈の壁が、突然裂けてしまう病気です。その痛みは、「突然、胸から背中にかけて移動する、引き裂かれるような、これまでに経験したことのないほどの激痛」と表現されます。失神したり、手足の麻痺や腹痛を伴ったりすることもあり、極めて死亡率の高い、緊急手術が必要な状態です。さらに、「肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)」も、見逃してはならない病気です。足の静脈にできた血栓(血の塊)が、血流に乗って肺の動脈に詰まることで発症します。「突然の胸の痛み」と共に、「呼吸困難」や息切れが主な症状です。長時間同じ姿勢でいた後などに起こりやすく、これもまた命に関わる危険な状態です。これらの危険な胸の痛みは、様子を見ている時間はありません。「いつもと違う」「何かおかしい」という直感は、体が発している重大な警告信号です。自己判断で我慢せず、すぐに救急要請を行う勇気が、あなたやあなたの大切な人の命を救うことに繋がります。
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口唇ヘルペスと帯状疱疹、皮膚科へ急ごう
ピリピリとした違和感の後、唇の周りに小さな水ぶくれができてしまう「口唇ヘルペス」。そして、体の片側に沿って帯状に激しい痛みを伴う発疹が現れる「帯状疱疹」。これらは、どちらもヘルペスウイルス科に属するウイルスが原因で起こる皮膚の病気であり、これらの症状が現れた時にまず向かうべき診療科は「皮膚科」です。口唇ヘルペスは、「単純ヘルペスウイルス1型」が原因で起こります。一度感染すると、このウイルスは顔の神経(三叉神経節)に潜伏し、風邪や疲労、ストレスなどで免疫力が低下した時に再活性化して症状を引き起こします。唇やその周りに、かゆみやチクチクとした痛みを感じた後、小さな水ぶくれがいくつか集まってできるのが特徴です。皮膚科では、この特徴的な見た目から診断を下し、抗ウイルス薬の塗り薬や飲み薬を処方します。早期に治療を開始することで、症状の悪化を防ぎ、治癒までの期間を短縮することができます。一方、帯状疱疹は、水ぼうそう(水痘)と同じ「水痘・帯状疱疹ウイルス」が原因です。子供の頃にかかった水ぼうそうのウイルスが、神経節に長年潜伏し、加齢や過労などで免疫力が低下したことをきっかけに再活性化して発症します。体の左右どちらか一方の神経の走行に沿って、帯状に強い痛みを伴う赤い発疹と水ぶくれが現れるのが最大の特徴です。この痛みは非常に強く、「焼けるような」「針で刺されるような」と表現されることもあります。帯状疱疹で最も怖いのは、皮膚症状が治った後も、数ヶ月から数年にわたって頑固な神経痛が残ってしまう「帯状疱疹後神経痛(PHN)」という後遺症です。この後遺症のリスクを減らすためには、発症後できるだけ早く(できれば72時間以内に)抗ウイルス薬の服用を開始し、ウイルスの増殖を強力に抑えることが何よりも重要です。皮膚科では、抗ウイルス薬に加えて、痛みを和らげるための鎮痛薬も処方し、つらい症状をコントロールします。口唇ヘルペスも帯状疱疹も、放置すると症状が悪化したり、痕が残ったり、後遺症に悩まされたりする可能性があります。皮膚に異常を感じたら、自己判断で市販薬を塗ったりせず、皮膚の専門家である皮膚科医に速やかに相談しましょう。
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循環器内科と心臓血管外科、その違いとは
心臓の病気で病院を探していると、「循環器内科」と「心臓血管外科」という、よく似た名前の診療科を目にすることがあります。どちらも心臓を専門としていることは分かりますが、その役割には明確な違いがあります。この違いを理解しておくことは、自分の症状や状況に応じて、適切な医療を選択する上で非常に重要です。まず、「循環器内科」は、心臓と血管の病気を「内科的」に治療する専門家です。ここでの「内科的治療」とは、主に薬物療法や生活習慣の改善指導、そしてカテーテル治療などを指します。例えば、高血圧や不整脈に対しては、薬を使って血圧や脈拍をコントロールします。狭心症や心筋梗塞に対しては、薬で血栓を予防したり、手首や足の付け根から細い管(カテーテル)を血管に挿入し、狭くなった心臓の血管を風船やステント(金属の網)で広げる「カテーテルインターベンション(PCI)」という治療を行います。つまり、体に大きなメスを入れることなく、内側から病気を治療するのが循環器内科の役割です。一方、「心臓血管外科」は、その名の通り「外科的」なアプローチ、すなわち手術によって心臓や血管の病気を治療する専門家です。薬やカテーテル治療では治すことが困難な、構造的な問題がある場合にその真価を発揮します。例えば、心臓の弁が壊れてしまった心臓弁膜症に対して、人工弁に置き換える「弁置換術」や、自身の弁を修復する「弁形成術」を行います。また、心臓の血管が複数箇所で重度に詰まってしまった冠動脈疾患に対しては、体の他の部分の血管を使って、詰まった部分を迂回する新しい血の通り道を作る「バイパス手術」などを行います。胸を大きく開いて行う、いわゆる「開心術」が、心臓血管外科の代表的な治療法です。診療の流れとしては、まず動悸や胸痛などの症状で「循環器内科」を受診し、そこで心電図や心エコーなどの検査を受けます。そして、その検査の結果、手術が必要と判断された場合に、「心臓血管外科」へと紹介されるのが一般的です。まずは診断と内科的治療の可能性を探るために循環器内科へ、という流れを覚えておくと良いでしょう。
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なぜ大人のヘルパンギーナは重症化しやすいのか
「子どもの夏風邪」と軽んじられがちなヘルパンギーナですが、なぜ大人が感染すると、子どもとは比較にならないほど重く、激烈な症状に見舞われるのでしょうか。その背景には、子どもの頃に様々なウイルスに暴露されてきた経験の有無と、大人ならではの免疫反応の強さが複雑に関係しています。ヘルパンギーナの原因となるのは、主にコクサッキーウイルスA群を代表とするエンテロウイルス属のウイルスです。このエンテロウイルスには非常に多くの血清型(ウイルスのタイプ)が存在します。子どもは、保育園や幼稚園といった集団生活の中で、様々なタイプのエンテロウイルスに次々と感染し、その都度、そのタイプに対する免疫を獲得していきます。そのため、一度ヘルパンギーナにかかっても、次に別のタイプのウイルスに感染した際には、ある程度の交差免疫が働いたり、免疫反応がマイルドになったりして、比較的軽い症状で済むことが多いのです。一方、大人の場合、子どもの頃にヘルパンギーナの原因となる全てのウイルスタイプに感染しているわけではありません。特に、自分が過去に感染したことのないタイプのウイルスに初めて感染した場合、体はそれを完全に未知の侵入者とみなし、全力で排除しようとします。この時、大人の成熟した強力な免疫システムが、サイトカインなどの炎症性物質を過剰に産生し、それが結果として40度近い高熱や、全身の強い炎症反応、そして耐え難いほどの激しい喉の痛みといった、いわゆる「サイトカインストーム」に近い状態を引き起こしてしまうのです。つまり、大人のヘルパンギーナが重症化しやすいのは、免疫力が弱いからではなく、むしろ「強力すぎる免疫反応」が自らの体を攻撃してしまう、という皮肉なメカニズムによるものなのです。また、社会人としてのストレスや疲労、睡眠不足などが免疫バランスを崩し、ウイルスとの戦いをより困難にしている側面も否定できません。子どもの頃に得たはずの免疫も、全てのウイルスタイプを網羅しているわけではないという事実を理解しておく必要があります。