気分の落ち込みや倦怠感が続く時、多くの人はうつ病を疑いますが、実は、うつ病と非常によく似た症状を引き起こす、身体的な病気も存在します。これらの病気を見逃さないためにも、心の不調を感じた時に、どのような可能性を考えるべきか、そして、どの診療科が関わってくるのかを知っておくことは非常に重要です。まず、うつ病の症状と間違えられやすい代表的な病気が、「甲状腺機能低下症」です。喉仏の下にある甲状腺から分泌される甲状腺ホルモンは、体の新陳代謝を活発にする役割を担っています。このホルモンの分泌が低下すると、代謝が落ち込み、無気力、倦怠感、集中力の低下、気分の落ち込みといった、うつ病そっくりの精神症状が現れます。同時に、むくみや冷え、体重増加といった身体症状を伴うこともあります。この病気が疑われる場合、専門となるのは「内分泌内科」あるいは「一般内科」です。簡単な血液検査で、甲状腺ホルモンの値を測定すれば診断がつきます。次に、「更年期障害」も、うつ症状と混同されやすい状態です。四十代後半から五十代にかけて、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少することで、自律神経のバランスが乱れ、イライラや不安感、気分の落ち込み、不眠といった精神症状が、ほてりや発汗といった身体症状とともに現れます。この場合は、「婦人科」が専門となります。また、貧血、特に鉄分が不足する「鉄欠乏性貧血」でも、脳に十分な酸素が供給されなくなるため、だるさや疲れやすさ、集中力の低下、めまいといった症状が起こり、うつ病と間違われることがあります。これは「内科」で血液検査を受ければ分かります。さらに、睡眠時無呼吸症候群や、パーキンソン病などの神経疾患、あるいは一部の薬剤の副作用が、うつ症状の原因となっていることもあります。このように、心の不調の背景には、様々な身体の病気が隠れている可能性があるのです。そのため、精神科や心療内科を受診した際にも、医師はまず、これらの身体疾患の可能性を除外するための問診や、必要に応じて血液検査などを行います。心の不調は、心だけの問題とは限らない。その多角的な視点を持つことが、正しい診断への第一歩となります。
うつ病と間違えやすい病気と診療科