顎関節症による顎の痛みは、ある日突然発症するように感じられるかもしれませんが、その背景には、長年にわたって無意識のうちに続けてきた、顎に負担をかける「危険な癖」が隠れていることがほとんどです。これらの癖を自覚し、改善していくことが、症状の緩和と再発予防の鍵となります。最も代表的で、かつ多くの人が自覚しにくいのが、「TCH(Tooth Contacting Habit:歯列接触癖)」です。通常、私たちの上下の歯は、リラックスしている状態では接触しておらず、2~3ミリの隙間が空いています。しかし、ストレスや緊張、集中している時などに、無意識に上下の歯を「カチッ」と合わせ続けたり、軽く接触させ続けたりする癖があるのです。このわずかな接触が長時間続くだけで、顎周りの筋肉(咀嚼筋)は常に緊張状態となり、疲労が蓄積して痛みやこりを引き起こし、顎関節に過剰な負担をかけます。パソコン作業中やスマートフォンの操作中に、ふと気づくと歯を食いしばっていないか、意識してみてください。次に、「片側だけで噛む癖(偏咀嚼)」も危険です。いつも同じ側ばかりで食べ物を噛んでいると、片方の顎関節と筋肉だけが酷使され、左右のバランスが崩れてしまいます。これにより、片側の顎に痛みが出たり、顔の歪みの原因になったりします。また、「頬杖をつく」癖も、顎に直接的な圧力をかける悪しき習慣です。特に、横方向からの持続的な圧力は、顎関節の位置をずらし、関節円板にダメージを与える可能性があります。同様に、「うつ伏せ寝」や「横向きで同じ側ばかりを下にして寝る」ことも、睡眠中に長時間にわたって顎に不適切な力を加えることになり、朝起きた時の顎のだるさや痛みの原因となります。その他、硬い食べ物を好んで食べる、ガムを長時間噛み続ける、大きな口を頻繁に開けるといった行為も、顎への過剰な負担となります。まずは、自宅の壁やパソコンのモニターなどに「歯を離す」「頬杖をつかない」といったメモを貼り、自分の癖を意識化することから始めてみてください。その小さな気づきが、顎の健康を守る大きな一歩となるのです。
顎関節症を悪化させる日常の危険な癖