高齢者にとって、ノロウイルスは単なる「お腹の風邪」では済まされない、命を脅かす重大な疾患です。加齢に伴い低下した予備能力は、激しい下痢や嘔吐による急激な体液喪失に耐えられないことが多いため、受診の遅れが致命的な結果を招くことがあります。高齢者がノロウイルスを疑う症状を見せた際、どの診療科を選ぶべきかは、その方の普段の健康状態や生活環境によって決まります。まず、既に複数の持病があり、かかりつけの医師がいる場合は、まずはその内科、あるいは往診医に相談するのが最も安全です。かかりつけ医は、患者の心臓や腎臓の機能を把握しており、脱水が持病にどのような悪影響を及ぼすかを即座に判断できるからです。もし特定の主治医がいない場合や、夜間の急変であれば、迷わず総合病院の救急外来、あるいは地域の二次救急を担う内科を受診してください。高齢者のノロウイルスにおいて特に警戒すべきは、「不顕性感染(症状が出ないままウイルスを出す)」と「誤嚥性肺炎」です。激しい嘔吐の際、吐瀉物が誤って気管に入ってしまうと、ノロウイルスそのものの症状とは別に、肺炎というさらなる重症事態を引き起こします。もし、下痢や嘔吐が始まった後に、激しい咳が出たり、熱が下がった後も息苦しさが続いたりする場合は、呼吸器内科的な視点も必要になります。また、認知症を患っている高齢者の場合、自分の症状を言葉で伝えることができないため、周囲の介護者が「いつもより活気がない」「尿の回数が極端に少ない」「口の中が乾いている」といった微細なサインを見逃さず、迅速に受診させる決断を下すことが求められます。診察では、血液検査によって電解質バランスや脱水の程度、炎症反応をチェックし、必要であれば即座に入院による持続的な点滴管理が行われます。高齢者の場合、一度脱水で体力が落ちると、そのまま寝たきりになってしまったり、心筋梗塞や脳梗塞を誘発したりすることも珍しくありません。ノロウイルスというきっかけから始まる「負の連鎖」を断ち切るためには、初期段階での医学的な介入が不可欠です。何科へ行けばいいか迷って数時間を無駄にするよりも、まずは「一番近い内科の専門医」に連絡を取る。その一分一秒の判断が、大切な高齢者の命を守る、たった一つの、しかし最も強力な手段となるのです。