大人がヘルパンギーナに感染した場合、その苦しみは計り知れません。そして、その苦しみを大切な家族や職場の同僚にまで広げてしまわないように、徹底した感染対策を講じることは、患者としての重要な責務です。ヘルパンギーナは、インフルエンザなどと同様に非常に感染力が強い疾患であり、その感染経路を正しく理解することが対策の第一歩となります。主な感染経路は、「飛沫感染」と「接触感染」です。飛沫感染は、患者の咳やくしゃみ、会話などで飛び散ったウイルスを含む飛沫を、周囲の人が吸い込むことで感染します。接触感染は、ウイルスが付着した手でドアノブや手すりなどを触り、その場所に触れた別の人が、さらに自分の口や鼻、目に触れることで感染する経路です。さらに、ヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルスは、症状が治まった後も、長期間にわたって便の中から排泄され続けるという厄介な特徴があります。これを「糞口感染」と呼び、特にトイレ後の手洗いが不十分だと、感染を広げる原因となります。これらの感染経路を踏まえ、家庭内や職場で実践すべき具体的な対策は以下の通りです。まず、最も基本かつ重要なのが「手洗い」の徹底です。石鹸と流水で、指の間や手首まで30秒以上かけて丁寧に洗いましょう。特に、トイレの後、食事の前、鼻をかんだ後などは必須です。タオルは家族と共有せず、ペーパータオルを使用するのが理想的です。次に、患者は必ず「マスクを着用」し、咳やくしゃみをする際は、ティッシュや肘の内側で口と鼻を覆う「咳エチケット」を遵守します。食器やコップの共用も避けるべきです。また、ウイルスが付着しやすいドアノブ、リモコン、スイッチ、スマートフォンの画面などは、アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒液でこまめに拭き掃除を行いましょう。そして、症状がある間は、言うまでもなく、出勤や登校は控え、自宅で安静に過ごすことが大原則です。熱が下がり、喉の痛みが和らいでも、ウイルスは便中に2~4週間にわたって排泄される可能性があることを念頭に置き、症状回復後もしばらくは、特にトイレ後の手洗いを厳重に行う必要があります。自分自身の療養に専念すると同時に、周囲への感染拡大を防ぐ意識を持つことが、社会の一員としての責任です。