心の不調を感じて病院へ行こうと思った時、多くの人が「精神科」と「心療内科」のどちらを選べば良いのか分からず、立ち止まってしまいます。この二つの診療科は、どちらも心の悩みを扱うという点では共通していますが、その専門領域とアプローチには、明確な違いがあります。その違いを理解することが、あなたに合った適切な医療機関を見つけるための鍵となります。まず、「精神科」が対象とするのは、主に「心そのものの病気」です。その原因は、脳内の神経伝達物質のバランスの乱れなど、脳の機能的な不調にあると考えられています。具体的には、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、パニック障害、強迫性障害、依存症といった、精神疾患全般の診断と治療を専門としています。気分の落ち込み、不安、幻覚、妄想、不眠といった、精神症状が主な悩みの場合は、精神科が最も適した診療科と言えます。治療は、薬物療法(抗うつ薬、抗不安薬など)と、精神療法(カウンセリングなど)を組み合わせて行われることが一般的です。一方、「心療内科」が対象とするのは、主に「心身症」です。心身症とは、精神的なストレスや心理的な要因が、体に影響を及ぼし、身体的な症状として現れる病気のことです。例えば、ストレスが原因で起こる胃潰瘍、過敏性腸症候群、気管支喘息、緊張型頭痛、高血圧、円形脱毛症など、その範囲は多岐にわたります。つまり、症状は「体」に現れているけれど、その根本原因が「心」にある場合に、心と体の両面からアプローチするのが心療内科の役割です。内科の一分野としての側面も持っているため、身体的な検査や治療も行いながら、心理的なケアを進めていきます。では、うつ病の場合はどうでしょうか。うつ病は、精神症状が中心となるため、本来の専門は「精神科」です。しかし、うつ病には、頭痛やめまい、食欲不振といった身体症状も多く伴います。そのため、どちらの科でも相談は可能です。選び方の目安としては、「気分の落ち込みや不安がメインなら精神科」「体の不調がメインで、その背景にストレスがあると感じるなら心療内科」と考えると分かりやすいかもしれません。最近では、両科を標榜するクリニックも多いので、まずは通いやすい場所を探し、電話などで相談してみるのも良いでしょう。