顎の痛みを感じた時、多くの場合は顎関節症や歯科的な問題が原因ですが、ごく稀に、生命に関わるような危険な病気がその背後に隠れていることがあります。典型的な顎の痛みとは異なる「非典型的な症状」に気づくことが、最悪の事態を避けるためには極めて重要です。見逃してはならない危険なサインの一つが、「心臓疾患に関連する放散痛」です。特に、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患では、心臓の痛みが、左肩や腕だけでなく、首や顎にまで広がって感じられることがあります。もし、顎の痛みに加えて、「胸を締め付けられるような圧迫感」「息苦しさ」「冷や汗」といった症状が同時に現れた場合は、一刻の猶予もありません。すぐに救急車を呼ぶか、循環器内科を受診する必要があります。運動した時や階段を上った時などに顎の痛みが誘発される場合も、心臓への負荷が原因となっている可能性を疑うべきです。次に、頭痛の一種である「側頭動脈炎」も、顎の痛みを引き起こすことがあります。これは、主に高齢者に発症する血管の炎症で、こめかみにある側頭動脈が腫れて硬くなり、拍動性の激しい頭痛と共に、食事の際に顎が疲れて痛くなる「顎跛行(がくはこう)」という特徴的な症状が現れます。放置すると、視神経への血流が障害され、失明に至る危険性があるため、早期の診断と治療が不可欠です。膠原病・リウマチ内科が専門となります。また、「口腔がん」や「咽頭がん」などの悪性腫瘍が、顎の骨に浸潤したり、神経を圧迫したりすることで、持続的な痛みやしびれを引き起こすこともあります。なかなか治らない口内炎や、原因不明の腫れ、飲み込みにくさなどを伴う場合は、口腔外科や耳鼻咽喉科での精密検査が必要です。その他、帯状疱疹ウイルスが三叉神経に感染した場合や、脳腫瘍などが原因で三叉神経痛が起こり、電気が走るような激しい痛みが顎に生じることもあります。いつもの顎の痛みとは違う、何かおかしいと感じたら、決して自己判断で済ませず、まずはかかりつけ医に相談し、適切な専門科への橋渡しをしてもらうことが賢明です。
その顎の痛み、もしかしたら危険な病気のサインかも