普段、あまり意識して見ることのない自分の手のひら。ふと見てみると、なんだか全体的に赤い、特に親指の付け根のふくらみ(母指球)と、小指の付け根のふくらみ(小指球)が、まだらに赤くなっている。そんな症状に気づいたら、それは「手掌紅斑(しゅしょうこうはん)」と呼ばれる、肝臓からの危険信号かもしれません。手掌紅斑は、その名の通り、手のひら(手掌)が赤くなる(紅斑)症状で、肝機能が低下している際に見られる特徴的な皮膚所見の一つです。ただ手が赤いだけでなく、指で圧迫すると一時的に色が白くなり、離すとまた赤く戻るのが特徴です。通常、かゆみや痛みといった自覚症状はありません。この症状が現れるメカニズムは、胸や首にできるクモ状血管腫と同じです。肝臓の機能が、慢性肝炎や肝硬変、あるいはアルコールの過剰摂取などによって低下すると、体内で作られる女性ホルモン「エストロゲン」を十分に分解・処理することができなくなります。その結果、血液中のエストロゲン濃度が上昇し、その血管拡張作用によって、手のひらの末梢血管が拡張してしまうのです。特に、毛細血管が密集している母指球と小指球に、その影響が顕著に現れ、まだら状の赤みとして認識されるようになります。手のひらの中心部が、比較的白っぽく見えるのも特徴の一つです。もちろん、手のひらや指が赤くなる原因は、肝臓の病気だけではありません。運動後や入浴後など、一時的に血行が良くなって赤くなることもありますし、アトピー性皮膚炎などの皮膚疾患や、妊娠、甲状腺機能亢進症などでも、似たような症状が見られることがあります。しかし、他に思い当たる原因がなく、持続的に手のひらが赤い状態が続き、さらには、体がだるい、食欲がない、お酒をよく飲むといった自覚がある場合は、肝機能の低下を疑うべきサインと言えます。手掌紅斑は、それ自体が体に害を及ぼすものではありません。しかし、その背後で、肝臓の病気が静かに進行している可能性を示唆しています。この小さなサインに気づいたら、一度、消化器内科などを受診し、肝臓の状態をチェックしてもらうことをお勧めします。
手のひらが赤いのは肝臓の危険信号