足や腕に、いつできたのかわからない、青紫色のあざ(斑点)がいくつもできている。特に強くぶつけた記憶はないのに、なぜか内出血しやすい。もし、あなたがこのような症状に悩んでいるなら、その原因は、皮膚や血管の問題ではなく、血液をサラサラに保つための重要な働きをしている「肝臓」の機能低下にあるかもしれません。私たちの体には、出血した際に血液を固めて、血を止めるための仕組みが備わっています。この仕組みには、「血小板」という血液成分と、「凝固因子」と呼ばれる、血液中に存在する十数種類のタンパク質が、複雑に関わり合っています。そして、この凝固因子のほとんどは、肝臓で生成されています。つまり、肝臓は、単に栄養を代謝したり、毒素を分解したりするだけでなく、血液を固めるための重要な工場でもあるのです。しかし、慢性的なアルコールの摂取や、ウイルス性肝炎、脂肪肝などが原因で肝硬変へと病状が進行すると、この肝臓の工場としての機能が著しく低下します。その結果、血液を固めるために必要な凝固因子の産生が減少し、血液が固まりにくい状態になってしまいます。また、肝硬変では、脾臓という臓器が腫れて機能が亢進し、血小板を過剰に破壊してしまうため、血小板の数そのものも減少します。凝固因子と血小板、この二つが減少することで、私たちの体は非常に出血しやすい状態、いわゆる「出血傾向」に陥るのです。その結果、日常生活における、自分では気づかないほどの些細な打撲や圧迫でも、皮下で簡単に出血を起こし、青あざ、医学的には「紫斑(しはん)」ができやすくなります。歯を磨いただけで歯茎から血が出やすくなったり、鼻血が止まりにくくなったりするのも、同じメカニズムによるものです。もし、あなたの皮膚に、原因不明の赤い、あるいは青紫色の斑点が頻繁に現れるようであれば、それは沈黙の臓器、肝臓が発している危険なサインかもしれません。特に、体がだるい、黄疸が出ているといった他の症状を伴う場合は、速やかに消化器内科を受診し、肝機能と血液の凝固能を調べてもらうことが重要です。