ある日、鏡を見て、胸元や首、肩のあたりに、小さな赤い点を見つけた。よく見ると、その中心点から、まるでクモの足のように、細い血管が放射状に伸びている。こんな奇妙な赤い斑点ができていたら、それは「クモ状血管腫」と呼ばれる、肝機能低下のサインかもしれません。クモ状血管腫は、その特徴的な見た目から名付けられた皮膚の症状です。直径数ミリ程度の、少し盛り上がった赤い点(中心動脈)を核として、そこからクモの巣状に拡張した毛細血管が伸びています。この中心点を指で強く圧迫すると、血流が一時的に遮断されるため、クモの足のように見えていた赤い線はすっと消え、指を離すと、再び中心からじわっと赤みが戻ってくるのが、簡単な見分け方のポイントです。この不思議な血管腫がなぜできるのか。その主な原因は、肝機能の低下にあります。私たちの体では、男性でも女性でも、女性ホルモンの一種であるエストロゲンが作られています。そして、そのエストロゲンを分解し、体内のホルモンバランスを保つのが、肝臓の重要な役割の一つです。しかし、慢性肝炎や肝硬変などで肝臓の機能が低下すると、このエストロゲンの分解が追いつかなくなり、血液中のエストロゲン濃度が上昇します。エストロゲンには、末梢の血管を拡張させる作用があるため、この過剰なエストロゲンが、皮膚の細い動脈に作用し、血管を異常に拡張させてしまうのです。これが、クモ状血管腫の正体です。特に、心臓から送られた血液が勢いよく流れる上半身、中でも顔や首、胸、肩、腕といった部位に現れやすい傾向があります。一つや二つできたからといって、すぐに重篤な病気と結びつくわけではありませんが、数が増えてきたり、大きくなったりするようであれば、背景にある肝臓の病気が進行している可能性があります。クモ状血管腫は、沈黙の臓器である肝臓が、目に見える形で送ってくれている、数少ない警告の一つです。このサインを見逃さず、一度、内科、特に消化器内科や肝臓内科で相談し、血液検査などで肝臓の状態を確認してもらうことが大切です。