顎が痛いと感じた時、その痛みの発生源が本当に顎関節や筋肉にあるとは限りません。顎関節は耳のすぐ前に位置しているため、耳やその周辺組織の病気が、顎の痛みとして感じられる「関連痛」であることが少なくないのです。このような場合、歯科や口腔外科ではなく、「耳鼻咽喉科」を受診することが、問題解決への近道となります。では、どのような症状があれば耳鼻咽喉科へ行くべきなのでしょうか。その見分け方のポイントをいくつかご紹介します。まず、最も重要なのは「耳の症状」を伴っているかどうかです。顎の痛みに加えて、「耳が詰まった感じ(耳閉感)」「自分の声が響く感じ」「キーン、ジーといった耳鳴り」「聞こえにくい(難聴)」といった症状がある場合は、耳の病気の可能性が高まります。特に、急性の「中耳炎」や「外耳道炎」では、炎症が顎の近くまで及ぶことで、口を開け閉めする際に痛みを感じることがあります。次に、「耳の前や下の腫れ」も重要なサインです。耳の下から顎にかけてのラインにある「耳下腺」という唾液を作る組織に、ウイルスや細菌が感染して炎症を起こす「耳下腺炎(流行性耳下腺炎、いわゆるおたふくかぜが代表的)」では、その部分が腫れて硬くなり、食事の際に顎に強い痛みが生じます。口を開けるのがつらくなることもあり、顎関節症と間違えやすい疾患の一つです。また、顎の痛みだけでなく、「めまい」を伴う場合も注意が必要です。耳の奥にある三半規管や前庭といった平衡感覚を司る器官に問題が生じている可能性があります。さらに、風邪をひいた後に、鼻の奥にある「上咽頭」という場所に炎症が残り、その痛みが顎や耳の方に放散して感じられることもあります。これらのように、顎の痛みだけでなく、耳、鼻、喉に関連する何らかの症状が同時に現れている場合は、まず耳の専門家である耳鼻咽喉科を受診し、それらの疾患がないことを確認してもらうのが賢明です。そこで異常が見つからなければ、改めて歯科や口腔外科で顎関節症の可能性を探る、という順序で進めるのが最も確実なアプローチです。
耳鼻咽喉科へ行くべき顎の痛みの見分け方