一般診療の中で「自分は水疱瘡にかかったかわからないのですが、大丈夫でしょうか」という質問をよく受けます。医師の視点から言えば、この不安は非常に正当なものであり、決して軽視すべきではありません。なぜなら、成人の水痘・帯状疱疹ウイルス初感染は、小児のそれとは比較にならないほどの臨床的な重みを伴うからです。大人が水疱瘡にかかると、まず高熱が長期化する傾向があり、全身の皮膚症状も強く出ます。さらに、最も恐ろしいのは肺への影響です。成人の水痘患者の数パーセントは水痘肺炎を合併すると報告されており、激しい呼吸困難や咳に苦しむことになります。喫煙習慣のある方や妊娠中の方は特に重症化しやすく、生命の危険に直結することもあります。また、ウイルスは血管系や神経系にも影響を及ぼすため、稀に脳炎や小脳失調症といった重篤な後遺症を残す合併症も存在します。こうしたリスクを回避するために、私たちが推奨するのが抗体検査と予防接種です。現在の日本の制度では、二〇一四年から水痘ワクチンの定期接種が始まっていますが、それ以前に生まれた世代、特に一九八七年の任意接種開始以前に生まれた世代は、自然感染による免疫か、あるいは全く免疫を持っていないかのどちらかに分かれます。記憶が曖昧な場合、まずは血液検査でIgG抗体の有無を確認してください。もし、数値が基準値を下回っているならば、迷わずワクチンを接種すべきです。たとえ過去にかかったことがあったとしても、成人後の追加接種は、将来の帯状疱疹の予防という観点からも非常に有効な投資となります。帯状疱疹は、水疱瘡のウイルスが大人になってから再び暴れ出す病気ですが、ワクチンの接種によってその発症リスクを大幅に下げ、激しい神経痛という苦しみから逃れることができるからです。診察室で私たちが目にするのは、発症してから「もっと早く対策していれば」と肩を落とす患者様の姿です。感染症は、起きてから対処するよりも、起きる前に防ぐ方が遥かに効率的で安全です。自分がかかったかわからないという小さな疑問を、医学的な確信に変えること。私たちは、皆様がその一歩を踏み出し、不必要な感染のリスクから解放されるよう全力でサポートします。正しい知識は、どんな薬よりも強力な予防となるのです。
医師が解説する大人の水疱瘡感染リスクとワクチン