それは平穏な週末の夜、何の前触れもなく始まりました。夕食を済ませてくつろいでいたところ、急に胃のあたりが重苦しくなり、冷や汗が出てきたのです。最初は少し食べ過ぎただけだろうと横になっていましたが、数分後には我慢できないほどの吐き気が襲ってきました。そこからは、人生で最も過酷な数時間の始まりでした。トイレから一歩も出られず、胃の中のものをすべて出し切ってもなお、体は何かを排出しようと激しく波打ち続けました。喉が焼けるように痛み、全身の筋肉が強張るのを感じながら、私は「これがいわゆるノロウイルスなのか」と悟りました。夜が明ける頃には、今度は水のような下痢が始まり、立ち上がることさえままならないほど体力を消耗していました。何科へ行けばいいのか、朦朧とする頭でスマートフォンを操作し、ようやく近所の一般内科が朝から診療していることを確認しました。病院へ行くまでの道のりは、まさに苦行でした。タクシーの振動さえも腹部に響き、ようやく診察室に辿り着いたときには、顔色は土気色になっていました。医師は私の話を丁寧に聞いた上で、「典型的なウイルス性胃腸炎ですね。今の時期、この地域ではノロウイルスが流行っています」と告げました。私の場合は年齢的に検査は自費になるとのことでしたが、原因をはっきりさせたい一心で検査を希望しました。結果はやはり陽性。特効薬はないと言われましたが、医師は点滴を打つことを提案してくれました。腕の血管から冷たい水分が体に入ってくるのを感じながら、私はようやく一息つくことができました。一時間の点滴を終えると、あんなにひどかった吐き気が嘘のように静まり、歩く気力が戻ってきました。医師からは、家での消毒方法や、家族に移さないための食事の注意点などを細かく指導されました。もし、あのまま自宅で一人で耐え続けていたら、重度の脱水症でさらに事態が悪化していたかもしれません。病院へ行き、内科という適切な窓口で処置を受けたことが、回復への大きな転換点となりました。完治までにはさらに二日ほどかかりましたが、病院でもらった整腸剤と、医師の「必ず治りますから」という力強い言葉が、何よりの支えになりました。ノロウイルスの症状は壮絶です。しかし、恥ずかしがらず、また「たかが下痢だから」と侮らずに医療機関を受診すること。それが、心身の平安を取り戻すための最短距離なのだと、あの苦しみを経て痛感しています。今でも冬が近づくと、あの夜のトイレでの震えを思い出し、手洗いうがいを人一倍徹底するようにしています。